広げることと尖らせること

Twitterで音楽紹介bot(ジャズ名盤bot@jazzmeiban, ポストロック・エレクトロニカ・音響系@postrock_bot)の運営を始めてからもうかれこれ3年以上が経った。

音楽紹介botを作った理由は、こちらの記事でも少し触れたが、まず第一に、あまり多くの人に注目されていないジャズやポストロックなどのジャンルへの入り口を作って、これらのジャンルのファンを増やしたいという思いと、第二に、それらのジャンルをすでに好んで聴いている人に対して、周辺ジャンルを開拓することで幅を広げるきっかけを提供したいという思いがあったからだ。そのため、自分の好みや特定の方向性を全面には押し出さず、なるべく色んな人にアピールするような多様性に富んだ選曲を心がけてきた。いくら自分が好きだからといって通好みのマイナーな名前ばかりを並べても、初心者にはそもそも見向きすらしてもらえない。だからあえて他ジャンルの有名曲のカヴァーや、有名アーティストとのコラボ物などを積極的に紹介して、まず「おっ?」と興味を持ってもらおうと考えたのだ。また、特定の狭いジャンルに絞って紹介しても、興味を持ってくれる対象者は狭まるし、彼らにとっても、既に知っている好みの音楽の再確認にしかならず、あまり新しい価値を提供できないとも思ったのだ。例えばこれまでモダンジャズしか聴いてこなかったジャズ親父でも、「ジャズ」という共通言語さえあれば、最近のクラブジャズなんかも楽しめるかも知れないし、例えばゴリゴリのテクノ好きでも、そこからテクノ寄りのエレクトロニカ→生音系エレクトロニカ→アコースティック系ポストロック→轟音系ポストロック→シューゲイザーといった感じに、周辺ジャンルへと興味を広げていくことで、最終的に全然違ったジャンルまで好きになってもらえるかも知れない。自分はbotを通じて、多くの人にそうした新しい発見を楽しんでもらいたかったのだ。


さて、振り返ってみて、実際どのくらい効果があっただろうか?これまでフォロワーの方々の反応を見てきた個人的な印象だと、初心者にとっての入り口づくりにはそれなりに貢献することができたと感じている。一方で、特定ジャンルのファンへの周辺ジャンル案内としては、残念ながらそこまで有効ではなかったように思う。ジャズの方は、一言コメントで大体ジャンルが分かるので、結局モダンジャズ好きはモダンジャズばかり、クラブジャズ好きはクラブジャズばかりという風に、割りと選り好みして聴かれていたように見える。ポストロックの方は、コメントをつけておらず、アーティスト・曲名しか情報がないので、全体的にクリック率が低く、結果的にどうしてもマイナーなものより有名どころの方が(既に知っている好みの音楽の再確認として)クリックされていたように見える。まあある程度は仕方ないのだが、時々紛れ込ませた個人的にイチオシのコアなアーティストの楽曲が全く見向きもされない一方で、言っちゃ悪いがどう聴いてもダサいだろというような大御所や邦楽アーティストの曲なんかがたくさんリツイートされたりしていて、げんなりさせられることも多い。結局無節操に何でも取り上げることで、初心者を含め色んな人に幅広くフォローしてもらえたものの、逆に感度の高いハイセンスな人からは、美学を感じない選曲を見透かされて避けられてしまったのかも知れない。そのような人たちを惹きつけるには、やはり玉石混交ではなく、自分のフィルターを通して、真の音楽好きの感性を刺激するような尖った音楽を厳選して提示していくべきなのだろう。これからもbotでは相変わらず幅広くやっていくつもりだが、botの通常ツイートだけでなく、ブログでの特集や、個人的な音楽紹介ブログの始動といった形で、もっと尖った方向性も打ち出していこうかと思う。