Kurt Rosenwinkel

カート・ローゼンウィンケルといえば、コンテンポラリー・ジャズ・シーンの頂点に君臨するジャズギターの皇帝として、ギタリストのみならず多くのアーティスト達に大きな影響を与えている存在だ。初めて聴いた時は、よく分からない複雑なコード進行、エフェクター処理され輪郭のぼやけた音色、ひねくれたヘンテコな旋律に、正直いまいちピンと来なかった。しかし、色々聴いているうちにだんだん癖になってきて、気づいたらすっかり彼の音楽に魅了されていた。
カートの音楽の魅力は、ギタリスト離れしたスケールの大きい創造的なアドリブ表現と、独特の現代的な和声感覚にあると思う。アドリブの構成力については、彼自身影響を受けていると語っているジョー・ヘンダーソンに通じるものを感じる。思考停止の手癖垂れ流しや安直な必殺フレーズに逃げることなく、時に逡巡しつつも、一瞬一瞬の閃きを大事にしようとする姿勢から生まれるアドリブは、先の読めない緊張感に満ちている。音楽に予定調和の展開を求めるような人にとっては、捉えどころがないように聴こえてしまうかもしれないが、音楽に新鮮さや知的刺激を求める人なら、聴き手を未知の世界に連れて行ってくれるカートの音楽をきっと楽しめるはずだ。カートはギターだけでなくピアノの腕も一流である。そのためか彼の演奏は、凡百のギタリストのように、運指の制約にとらわれた「ギター的」な音楽表現に陥ることなく、完全に自由に心から湧き出る音楽を表現できているように感じる。独特の和声感覚についても、ギターよりコード・ヴォイシングの自由度が高いピアノの経験が役に立っているのかも知れない。
以下は個人的にお気に入りの演奏。



Zhivago - OJM + KURT ROSENWINKEL
ポルトガルのビッグバンドと共演した作品。"Zhivago"はライヴでもよく演奏されるカートの代表曲の一つ。アルバム『Next Step』に収録されているオリジナル盤もいいが、こっちの方がよりアグレッシヴに弾きまくっている。

アワー・シークレット・ワールド ( Our Secret World )アワー・シークレット・ワールド ( Our Secret World )
カート・ローゼンウィンケル

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Kurt Rosenwinkel - Conception
「バップを弾かんやつはジャズ・ミュージシャンとして認めん!」という石頭のモダンジャズ親父の方々のために、カートが伝統的なジャズもちゃんと弾けるということが分かる音源を紹介しておこう。これはカートの比較的初期の録音だが、クール・ジャズの代表格ジョージ・シアリングの難曲をオーソドックスなアプローチで軽やかに弾きこなしている。

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Michael Kanan, Joe Martin, Tim Pleasant Kurt Rosenwinkel

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Kurt Rosenwinkel - Number Ten
この曲ではカートの個性的なメロディー・センスを堪能できる。カートはアドリブ中にギターのフレーズを口ずさみながら弾く事が多い。彼の奇妙なメロディーが不思議と耳に残るのは、それが小手先の表現ではなく、しっかり歌として紡ぎだされたものだからだろう。

The Enemies Of EnergyThe Enemies Of Energy
Kurt Rosenwinkel

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Kurt Rosenwinkel- A Life Unfolds
この曲では冒頭約4分40秒にわたってカートの独奏が繰り広げられており、彼の非凡なハーモニー感覚を味わうことができる。ここでのコードソロは、一般的なジャズギターのそれとは大きくかけ離れた、アブストラクトで斬新なアプローチだ。反復しながら徐々に色彩を変化させていく繊細な表現は、スティーヴ・ライヒミニマル・ミュージックを彷彿させる。

レメディ~ライブ・アット・ヴィレッジ・バンガードレメディ~ライブ・アット・ヴィレッジ・バンガード
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おまけ: カートへのインタビュー
Kurt Rosenwinkel - Interview

2009年ニース・ジャズ・フェスティバルでのインタビュー動画。やりとりが面白かったので紹介。インタビュアーの女性はフランス人で、英語があまり得意ではなく、しかもジャズを全然知らないみたいで、カートに対して色々トンチンカンな質問を投げかけている。


0:27〜「なんで帽子かぶってるの?」
(それはハg(ry そこには触れないでおいてあげろよ…)


0:55〜「これはスタンダードを演奏するトリオなんだ。自作曲は演奏しない」「じゃあ即興演奏はしてないの?」
1:13〜「今日の演奏は即興だったの?信じられない!だってすごくメロディックだったから」
(ジャズの即興演奏がどういうものなのか全く知らないらしい)


1:50〜「色々な影響を受けてるのね。でも全部…同じスタイルでしょ」「えっ?いや、他にも色々…(中略)
まあ大半はジャズだけど、色んな音楽に影響受けてきたよ」「じゃあモダンジャズやってるふりしてるわけ?」「えっ?」
("You pretend to play modern jazz?"と言っているように聞こえるが、コメント欄で、インタビュアーはフランス語の"prétendre"(英: claim, intend)の意味で使ったのではという指摘あり)


3:53〜「どこに住んでるの」「ベルリン、ドイツだよ」「それはひどいわね…そんなとこに住んじゃいけないわ、そう思わない?」
(ドイツ人怒るぞw)